5ツ星ロッジ ムパタクラブに泊まる マサイマラ動物保護区(ケニア)

熟練の専属ガイド

サファリでどれだけの動物に出会えるかは、ガイドの良し悪しによるところが大きい。
その点私のガイド、パトリックさんは三重丸だった。その名を聞くと金髪のフランス人男性などを想像しそうだが、実は刈り上げ頭のいかついマサイ人のオヤジさんなのだ。目は落ちくぼみ前歯が一本ない。極めつきは耳たぶの大きな穴。マサイ出身なので、重い耳飾りをしていた名残りなのだろう。後ろからその穴を通して前の景色が見えたので、さすがに最初はぎょっとした。
ところがパトリックさん、見かけによらずはにかみ屋の優しいおじさんだ。サファリのドライバーガイドの腕も15年のベテランで、双眼鏡なしで動物の居場所を探すのも驚異的である。
落ちくぼんだ真剣なまなざしであたりをじっとうかがうや、「エレファント(象)」「ライオン」「チーター」、いとも簡単に大物の名前をボソッと口にする。どこどこ?とこちらが騒いでいるうちに、ジープを走らせライオンのすぐ近くにササッと連れて行ってくれる。これには脱帽である。さすがは「ムパタ・ロッジ」のお抱えサファリガイドである

アジスアベバからアルバミンチへの道

マサイの村にも貢献

「ムパタ・クラブ」はケニアのマサイ・マラ動物保護区にある。1992年7月にオープンした日本人経営のケニアで唯一の5ツ星サファリロッジで、広々とした一面緑のサバンナを見おろす丘の上に立つ。有名デザイナーによる斬新な建築様式を取り入れ、インテリアもユニークで、日本でも指折りの有名なフレンチレストラン「オテル・ドゥ・ミクニ」のシェフ三國清三氏の指導によるフランス料理が味わえる。それにホテルの建設時から、沸み上げた水を浄水し近隣のマサイの村に分けてあげたり、収益の一部で小学校の教科書を寄付したりと、よくある日本の海外ホテル進出とは一線を画している。そうしたエピソードを聞くにつけ、オープン当初から秘かに私はこのホテルに注目していた。

心温まるサービス

ナイロビから小型機で50分、小さな空港に降り立つや、スーツをきちっと着こなしたホテルのゲストリレーション嬢(お客様係)とくだんのパトリックさんの二人の温かい出迎えを受けた。20室というこじんまりしたホテルならではの家庭的なサービスは随所で見られる。
ナイロビの超一流ホテル出身のレストランスタッフたちも優秀でフレンドリーで皆感じがいい。高地にあるため肌寒い夜、テーブルにつくや、炭をたっぷり入れた旧式の暖房用具を足元に準備してくれたのには驚いた。昔懐かしい風情のあるそれが、天井の高い広々としたレストランの中であまりにもミスマッチだったからだ。
ディナーへの行き帰りは懐中電灯片手に部屋の前までエスコートしてくれるセキュリティガードがいたりして、VIP並のサービスである。そしておいしい料理とワインに心地よく酔って、私はベッドに潜り込んだ。
その瞬間足元に温かい物体が!それはなんと湯たんぽだった。それもよくある堅い金属製の替わりに氷嚢(ひょうのう)を使い、柔らかい布でくるんである。そのホカホカと優しい猫のような肌触りに、心も身体も温まる夜であった。

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