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井原三津子の旅コラム
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サハラ砂漠をラクダで散歩 砂を赤く染めあげる日の出のショー(モロッコ)
サハラ砂漠をラクダで散歩 砂を赤く染めあげる日の出のショー(モロッコ)
そびえる大砂丘
朝4時、砂漠の朝日を見に行くためには起きねばならぬ。眠い目をこすりながら分厚いセーターの上に革ジャンを着込み準備完了。なにしろ砂漠では昼間の猛暑に対し朝夕はかなり冷え込むのだ。
サハラ砂漠の観光の拠点エルフードの町に1泊して、約50キロ南にあるメルズーカヘ向かう。メルズーカの村の背後には大砂丘が聳(そび)え、モロッコで本物のサハラ砂漠を体験できる旅のハイライトの一つである。
4時半、頭にターバンを巻いてカフタという砂漠の民ベルベル人の衣装に身をつけたドライバーが白いランドローバーを駆って現れた。まだ真っ暗な道を走ると途中道がなくなり、いよいよ砂漠の入口である。ブッシュの生えた荒野をガタンゴトンと天井に頭をぶつけそうになりながら砂丘の麓(ふもと)を目指した。。
1時間半2,700円
夜空が白み始めた頃、一軒のカフェの前にラクダの群が見えた。ここからの「砂丘登り日の出ツアー」はラクダをチャーターするか歩いて行くしかない。
思案しているとひとりのラクダ使いがやってきた。 「ベストスポットで日の出を見せてやろう」その言葉にひかれた。1時間半の散歩が200ディルハム(約2,700円)という。ラクダ使いの名はモハメッド、愛称モハ。「バックバック!」モハはラクダの綱を引きながらしきりに私に叫ぶ。本格的な砂丘の急な登り下りにどうしても前のめりになってずり落ちそうになる私に、もっと後ろにのけぞれと注意しているのだ。なるほど思いっきりのけぞるとなんとか体勢が整い、やっとキャラバンの隊商の気分に浸る。同時にモハのガイドに耳を傾ける余裕も出て来た。
地面の所々にある穴を指さして「ひょっとしてサソリの巣か?」と問うと「これは砂漠のネズミの巣さ。サソリはもっと山奥にしかいない。」その答えを聞いてホッとした。ネズミのほかに「砂漠の魚」や「砂漠のキツネ」もよく見かけるのだとか。いったいどんな動物なのだろう。
かなり遠くまで行ってやっとラクダから解放された。「ここから歩いて登った砂丘の上が朝日を見るベストスポットだ」そう言ってモハはラクダの片足をくの字に曲げたまま紐(ひも)で縛り動けなくした。くくりつける木のない砂漠のど真ん中でラクダを止めておく遊牧民の知恵である。
砂丘に登ろうとすると、靴の中にさらさらと水のように冷たい砂がどんどん入ってくる。日中に灼(や)けつくような砂とは別物の太陽が顔を出すまでの不思議な砂の感覚だ。滑り落ちそうな砂の中にのめり込むような感じで、モハに引っ張りあげられてやっと上に着く。ラクダの背にのせていた絨毯(じゅうたん)を敷いてその上に並んで座り、砂漠の地平線の彼方に目を凝らす。
砂漠のお土産
日の出のショーが神秘的に幕を開けた。静寂の中で真っ赤な太陽が砂漠の砂をオレンジ色に染め上げる。静かすぎて何キロも離れたところで日の出を見ている人の声が間近に聞こえる。ラクダが草をはむ音がする。パリポリポリポリ…。「ミュージックみたいだろ」モハは詩的な表現をする。
砂丘を下りるとき砂がまた靴の中には入ったと嘆く私に「それは朝日に染まった砂漠のスヴニール(お土産)さ」とモハは笑った。
ホテルに戻って靴から砂を出す。サラサラと地面に落ちる砂は砂漠の茶色ではなかった。まるで朝日に染まったように、驚くばかりに赤い砂だった。