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この記事に掲載されている国は、現在、外務省より退避勧告・渡航中止勧告が出されている地域があります。詳しくは、「外務省の危険情報」をご確認ください。
イスラエルと言えばパレスチナ問題で世界中から注目を集めている中東の国家です。聖地エルサレムを巡り幾度となく争いを続けてきた両国。なんとなくそんなニュースのイメージから「怖い」「危なそう」といった印象を抱かれがちなイスラエルですが、実際に訪れてみると印象が180度変わってしまうような素晴らしい国なのです。
今回はイスラエルに2度訪れた経験を持つ私が、まだまだ日本人が知らないこの国の魅力についてご紹介していければと思います。
面積 | 2.2万㎢(四国ほどの大きさ) |
人口 | 約934万人 |
首都 | エルサレム(※国際社会は承認していない) |
民族 | ユダヤ人74%、アラブ人21%、その他 |
言語 | ヘブライ語(公用語)、アラビア語 |
宗教 | ユダヤ教74%、イスラム教18%、キリスト教2%、ドルーズ1.6% |
治安 | 不安定な情勢ゆえに治安が心配されますが、旅行者が狙われることはありません。 ただ、スリや置き引きなどどこの観光地でも見られるような軽犯罪はあるので最低限の対策は必要です。 |
備考 | 時差は日本より6時間遅れ。 |
イスラエルってどんな国?
地中海に面し、レバノンやシリア、ヨルダン、エジプトと国境を接する国、イスラエル。第二次世界大戦後、1948年にユダヤ人達によってつくられたイスラエルは、その建国までの経緯から問題が多く、特にパレスチナとの間で長年繰り広げられている領有権争いは深刻です。宗教上重要な意味を持つ都市エルサレムは、イスラエルとパレスチナ両国がこぞって欲しがる街。イスラエルはエルサレムを首都としていますが、反対の声が多く、国際的な承認は得られていないのが現状です。
2018年にはそんな反対の声を無視して、トランプ前大統領がアメリカ大使館をエルサレムに移したことが話題になりました。当然今まで均衡状態を保っていたイスラエル・パレスチナ両国の関係も悪化。バイデン政権でどこまで関係が回復するか注目が集まっています。
そんなネガティブなイメージが先行してしまうイスラエルですが、実は他に類を見ない非常にユニークで魅力あふれる国。イスラム教、キリスト教、ユダヤ教という3つの大きな宗教の一大聖地がこの国に集結しており、毎年多くの信者がこの地に巡礼に訪れるのです。
そして意外かもしれませんが、イスラエルは中東のシリコンバレーとも称されるようなIT・ハイテク関連の企業が集まるイノベーティブな場所。毎年1000社以上のベンチャーがこの国に生まれるそうで、いま世界中から注目されている国でもあるのです。
イスラエルって危なくない?
イスラエルと聞くとどうしてもパレスチナ問題がつきまとい、「イスラエル=危ない」と考える人も少なくありません。しかし実際に訪れてみるとイスラエルは想像とはかなり異なった国だと気づくでしょう。
そもそもニュースなどで取り上げられるような事件は旅行者を狙ったものではありません。街中にも武装した警察が多く巡回していて、国も治安維持に力を入れているのが分かります。また情勢的に不安定な地域に関してはそもそも立ち入りを厳しく制限しているので、普通に旅行をしていて身の危険を感じる機会はまずありません。
外務省の危険度情報のページにおいても、エルサレムは危険度1。念のため注意して旅行をすれば問題が無い地域に相当します。これはエジプトやカンボジアなど、私たちに馴染み深い国々の危険度レベルと一緒です。一度入国すれば訪問前に「危ない」と思っていたことを忘れるくらい、危険を感じることの無い国…それがイスラエルなのです。
出入国が厳しいってホント?
その複雑な情勢上、出入国審査を徹底しているイスラエル。アメリカなどをはじめ入国審査を厳しく取り締まる国は世界中にありますが、出国審査まで厳しいというのはあまり聞いたことはありません。そのためイスラエルの出国審査は「世界一厳しい」とも言われており、実際私が訪れた際もかなり時間を要したことを覚えています。
3年ほど前に社員旅行でイスラエルとパレスチナを訪問した私。無事観光を楽しみ、さて残すは出国審査という時まさかの事態に陥ったのです。イスラエルの出国審査は入国時同様、質問形式で進んでいきます。ただ団体旅行の場合は少し変わっていて、そのグループの中から英語の話せる人が無作為に2人選ばれます。それぞれ離れた場所で検査官から質問を受け、2人の発言に相違が無いか確認するというシステムです。滞在中の旅程など事細かに話していくのですが、「パレスチナに行った」なんてイスラエルの出国審査で言えば出国できないと思い伏せていた弊社のAさんと、どうせバレるからと正直に話したBさん。結果2人の発言が合致しないということで「何故嘘をついた」と強く問い詰められ、荷物を隅から隅まで検査される羽目になったのです。
出国審査が厳しいとは聞いていましたがまさかここまでとは…。結局出国審査に30分以上の時間を割くことになり、少々後味の悪い旅となってしまいました。
また、パスポートにイスラエルのスタンプがあると今後アラブ系の国に入国できない可能性もあります。最近は別紙で入国許可証のようなものを発行してくれるので問題ないと思いますが、捺されそうになったら注意しましょう。
3宗教の聖地エルサレム
イスラム教、キリスト教、ユダヤ教の3つの宗教の一大聖地が集まるエルサレム。と言っても「聖地」と称されるのは、約1km四方の城壁で囲まれたエルサレム旧市街のことを指します。その小さな地域の中に3つの宗教が混在している聖地エルサレムは、宗教的に非常に複雑な土地でありながらそれと同時に非常に魅力的な街でもあります。
まずイスラム教の聖地であり、一際目立つエルサレムの象徴ともいえる岩のドーム。黄金のドーム屋根を持つそれは、預言者ムハンマドが昇天したとされる岩の上に建ち、現存する最古のイスラム建築とも言われているのです。
そしてキリスト教の聖地である聖墳墓教会。イエスキリストが十字架にかけられたゴルゴダの丘はこの地にあったとされ、教会の内部にはイエスのお墓やモザイク画などが置かれています。
そして最後がユダヤ教の聖地、「嘆きの壁」。かつてユダヤ教の神殿が建っていたとされるこの場所。ローマ帝国に大部分を破壊されてしまったものの、この西側の壁だけは残り、ユダヤ教の人々にとってこの壁は重要な意味を持っているのです。よくこの壁の前で黒い帽子を被った黒づくめの人たちがお祈りをしている姿を見かけますが、彼らは超正統派と呼ばれるユダヤ教を学ぶことを生業とした敬虔な信者。彼らの生活費はすべて国から補助されるというから驚きです。
名称 | 神殿の丘(ハラム・シェリーフ) |
営業時間 | 夏期8:30~11:30、13:30~14:30 冬期7:30~10:30、12:30~13:30 |
定休日 | 金・土・祝、ラマダーン期間中の午後 |
入場料 | 無料 |
備考 | ショートパンツやノースリーブ、大きい荷物の持ち込みは入場不可。 入場時のパスポートなどの身分証明書を求められる場合がある。 |
営業時間 | 随時 |
定休日 | なし |
入場料 | 無料 |
備考 | 入場は自由ですが、テロ対策として手荷物のチェックあり。ノースリーブや短パンはNG。 男性は頭を隠す必要があるので、帽子を被るか入口でキッパを借りましょう。 |
ユダヤ人の苦難とパレスチナ
ユダヤ人と聞くとどうしても思い浮かべてしまうのが、第二次世界大戦中にナチスドイツによって行われた、ユダヤ人の大量虐殺。600万人を超える犠牲者を生んだその凄惨な事件はあまりに有名です。しかしユダヤ人差別が行われていたのは、実はそれよりずっと前から。
元々今のイスラエルがある場所に国を築いていたユダヤ人。しかしそれも西暦135年にローマ帝国によって滅ぼされてしまい、彼らはヨーロッパ各国に逃れることになります。そしてやっとの思いで逃げてきた場所でも彼らは宗教上の理由から酷い差別を受け、最終的にナチスドイツの歴史へと繋がっていくのです。
そんな反ユダヤ主義の流れを受け、ユダヤ人の中に「故郷に帰り祖国を再建しよう」という思想が芽生えます。ローマ帝国に追放されて以降、アラブ人によって「パレスチナ」という国が建国されていたその場所。当然既にその地で暮らしていたアラブ人と、再び戻ってきたユダヤ人が対立しないはずもなく、彼らは何度も戦争を繰り返します。
そして1948年、アメリカやイギリスの支援を受けてついにユダヤ人は彼らの悲願を達成。しかし裏を返せばそれは多くの犠牲の上に成り立った平和。当然そこで暮らしていたアラブ人たちはパレスチナ難民となり、「パレスチナ問題」として現在も深刻な問題となっているのです。
実は多民族国家??
先ほど述べた「パレスチナ問題」。大まかに言えばユダヤ人とアラブ人の対立であることに変わりはないのですが、このユダヤ人とアラブ人問題をさらに複雑にしているのが、イスラエルにおけるアラブ人の存在でしょう。「イスラエル人=ユダヤ人」「パレスチナ人=アラブ人」と単純に2極化しているだけなら話はまだ簡単でしたが、実はイスラエルの国籍を持つアラブ人は全体の20%にも及びます。そしてその大半は穏健なイスラム教徒。そのためイスラエル議会には第三勢力であるイスラム教派の政党も存在し、発言権を持っているのです。
そういった背景からイスラエルでは主にヘブライ語が離されますが、そのほかにも国民の20%が使用するアラビア語。そして世界中から離散したユダヤ人がこの地に移住してきたという歴史から英語も広く使われているのです。移民の中で多いのはロシアや旧ソ連からの人々で、イスラエルの人口の15%ほどを占めます。そのためロシア人向けスーパーマーケットがあったり、滞在中ロシア語を聞く機会もあるかもしれません。移民の国イスラエルは、私たちが想像しているよりずっといろんな人種が集う多民族国家なのです。
ユダヤ教徒が食べられないもの
キリスト教徒やイスラム教徒と比べると、食事に関して非常に厳しいルールがあるユダヤ教。「カシュルート(コーシェル)」と呼ばれる食事規定があり、食べてよいものとダメなものが明確に区別されているのです。その代表的な例が豚肉、血液、イカ、タコ、海老、カニ、鰻、貝類。一瞬「血液?」と思われた方もいるかもしれませんが、これは肉や魚をきちんと血抜きした上で、しっかり中まで火を通さないと食べてはならないという意味があります。
そして「カシュルート」において、もっとも難解なのが乳製品と肉料理の組み合わせです。
シチューやチーズインハンバーグなどはもちろんのこと、乳製品と肉が同時に胃の中にあることを良しとしない決まりまであり、同じ献立の中に乳製品と肉が入っているだけでもアウト。また肉を食べた後に時間を空けずに乳製品を食べるなどの行為も禁止、同じ調理器具を使うことも規則に反するので、わざわざ台所用品や洗い場を分けることもあるのだとか。
またシェヒターと呼ばれる屠殺方法まであり、規則に則って屠殺され尚且つ様々な検査をクリアした肉だけが、ユダヤ教徒の口の中に入ることを許されるのです。
非常に厳しい規則があるユダヤ教ですが、これこそがこの宗教のアイデンティティなのかもしれません。
パレスチナ自治区とは①
第二次世界大戦以降、イスラエルにより占領されどんどんその面積を縮小しているパレスチナ。現在は主に「ヨルダン川西岸地区」と地中海に面する「ガザ地区」がパレスチナ自治区として知られています。
先ほども述べたようにそもそもパレスチナの人々がこの地域に追いやられているのは、イスラエルの建国がもたらした多大なる弊害。約550万人を超えるパレスチナ人が故郷と家を失い、「パレスチナ難民」として周辺国へと亡命しているのです。その規模は難民グループとしては最大で、彼らは70年間ずっと故郷への帰還を切望しているのです。
ガザ地区は2021年3月現在、危険度3で渡航中止勧告が出ているため行けませんが、ヨルダン川西岸地区へは訪れることが可能。私は観光でヨルダン川西岸地区に足を踏み入れたことがあるのですが、やはりイスラエルの方がどこか活気があり栄えている印象を受けました。しかし実はパレスチナもイスラエルに負けないほど魅力の溢れる国なのです!
特にパレスチナきっての観光地であるベツレヘムには多くの見どころが集まります。エルサレムにはイエスのお墓が安置されている聖墳墓教会がありますが、こちらはイエスが生まれたとされる聖誕教会がある場所。更にこの聖誕教会から少し東へ行った先にあるのが、ミルク・グロットと呼ばれる伝説の教会です。聖母マリアの胸から母乳が1滴洞窟に落ちると、赤かった地面が急に白く染まったという伝説に由来した名前を持つこの教会は、聖誕教会と併せて見ておきたいスポットです。そのほかにもダビデ王ゆかりの井戸や「羊飼いの野」などチェックポイントがたくさんあるので、是非とも時間をかけて巡ってみてはどうでしょうか。
またパレスチナ国内にはエリコ(ジェリコ)と呼ばれる都市があるのですが、ここもベツレヘム同様魅力あふれる町です。海抜-260mという世界でも有数の低地にある町の一つで、紀元前1万年前から人が住んでいた跡が残る、世界最古の町でもあります。暖かい気候と豊かな水源から果実がよく育ち、南国のような雰囲気があるこの場所は、実はパレスチナ屈指の考古学遺跡で中東最大のモザイクの床が美しいヒシャーム宮殿がある場所。「生命の樹」と呼ばれる非常に保存状態の良いモザイク画が有名ですが、周りのレリーフも緻密で目が離せません。
また1万年も前の住居跡が残っている古代都市テル・アッスルターン、そして少し足を延ばした先にある、崖にへばりつくようにして建つ聖ゲオルギウス修道院などもおすすめ。イスラエルに負けず劣らずの歴史を持つパレスチナは、観光地としてのこれ以上ないほど魅力を備えた国なのです。
営業時間 | 夏期6:30~19:30 冬期5:30~17:00 |
定休日 | なし |
入場料 | 無料 |
営業時間 | 夏期8:00~17:45 冬期8:00~16:45 |
定休日 | なし |
入場料 | 無料 |
パレスチナ自治区とは②
パレスチナの魅力は何といってもその歴史の長さと、聖地としての側面でしょう。しかしご存知の方も多いように、パレスチナの見どころはそれだけにとどまりません。
特に、バンクシーの描いた「花束を投げる少年」のウォールアートなどはあまりに有名ですよね。今にも火炎瓶を投げつけそうな少年が持っているのは花束。暴力を批判するこの作品は平和の象徴ともいえる、パレスチナのシンボルなのです。
またパレスチナでは人の優しさもよく感じられました。アインシュタインの真似をしてお茶目に舌をべーっと出してくるレストランのおじちゃん、カメラを向けると笑顔で手を振ってくれた子供たち。そして特に私が印象に残ったのが、ラマッラーにあるアラファト議長のお墓でのことです。お墓の横に立つ2人の警備員さんは、まるで彫刻のようにピクリとも動きません。同じポーズをして一緒に写真を撮っても無反応。敬礼してみても無反応。まぁお仕事中だし仕方ないか…そんな風に思いながら最後別れ際にダメ元で手を振ってみると、彼らははにかみながら小さく手を振り返してくれたのです。
この出来事があってから、今までパレスチナと言うと怖いイメージが先行していましたが、国民一人一人は私たちとなんら変わらないのだと少し安心しました。
イスラエルに行くなら是非とも一緒にパレスチナ自治区へ足を運んでみてはいかがでしょうか。きっとパレスチナのイメージがガラリと変わること間違いなしです。
まとめ
いかがでしたか?悪い話題ばかりニュースで取り上げられるせいで「危ない国」というイメージがついているイスラエルですが、その歴史的背景を知ればきっとパレスチナ問題への理解も深まるはずです。非常に難しい状況にある国ですが、3大宗教の聖地があったりと観光客にとっては見どころ満載の国なので、是非一度訪れてみてはいかがでしょうか。