「チェーンストホーヴァの黒いマリア像」そう書いた小さなメモ用紙を私はずっとデスクの片隅に貼り付けていました。
「ポーランドへ行くならチェーンストホーヴァに行った方がいいですよ」
かつてポーランドに住んでいたことがある知人がそう勧めてくれたからです。
ポーランド出張の日程に最初は入っていなかったのですが、なんだかとても気になって、出発1週間前に日程を変更して急遽行くことにしたのです。実際行ってみて大正解でした。ポーランドといえばクラクフ、アウシュビッツが定番の観光地ですが、他にも行くべき場所が見つかったのです。チェーンストホーヴァの奇跡の教会。そしてヴロツワフ近郊の2つの平和教会。ヤヴォルとシフィドニツァ。今回はあまり知られていないポーランドの宝物のような聖地をご紹介いたしましょう。
ポーランドの田舎に聖地があった
ポーランドは本当に見どころの多い国だと再認識しました。クラクフから妖精の町として知られるヴロツワフへ当初列車で行こうと計画し始めた私。ところが列車はとても不便だったのです。ポーランド国内の移動は飛行機か車なのです。そこで専用車をチャーターしていくこととなり、それならせっかくなので少々遠回りだけれど北上して聖地チェーンストホーヴァにも足を延ばそうということで決まったのです!
クラクフから車で約2時間。チェーンストホーヴァはポーランド人にとって最も大切な存在と言われる聖地です。ヤスナ・グラ僧院にある黒いマリア像こそがカトリック教徒にとって奇跡のマドンナと呼ばれる信仰の対象です。
そしてヴロツワフの南西車で1時間余りに位置する2つの平和教会も見逃せない聖地です。6000人~7000人もの信者を収容できるスケールの大きな教会で世界遺産に指定されています。かつて3つあった木造教会のうち一つは火災で焼失。残る2つがヤヴォル教会とシフィドニツァ教会なのです。ポーランド人の宝であるこうした聖地の教会は、この国を訪れるなら是非一度足を延ばして見に行ってほしい存在です。
私にとっても一番の聖地はチェーンストホーヴァ!!
国民の95%以上がカトリック信者の国ポーランドで、一番の聖地でしかも精神的なよりどころになっているのがチェンストホーヴァです。ここのヤスナ・グラ僧院の「黒いマドンナ」の聖画は、奇跡を起こすとされ、守り神として多くの国民の信仰を集めています。ポーランド人にとって一番大切なこの町は、我々外国人観光客にとっても必見の地といえるでしょう。
日々多くの信者がミサに訪れ、毎年8月15日に行われる聖母マリアの被昇天の祝日にはポーランド中の人々が集まり、中には10日以上かけて歩いて巡礼に訪れる人々も多いと聞きました。
黒いマドンナの壁画はエルサレムからビザンチウム(コンスタンチノープル)を経て1384年にこの僧院に寄贈されました。1655年スウェーデン軍のポーランド侵攻の際も、この僧院だけは黒いマリア像により守られたという伝説があるのです。
僧院を案内してくれたのはここの尼僧(シスター)であるカロリンさん。ポーランド人が多く暮らすシカゴに6年間住んでいたとかで英語が堪能。ゴシック様式に後バロック様式が加わり、24金も多用された豪華な内装。決して華美にはならず不思議なほど心が豊かになり、訪れる人すべてを感動させる雰囲気なのです。カロリンさんはたくましく、ミサの最中でも脇道をどんどん進み、黒いマリア像の斜め下のところまで私を連れて行ってくれました。
マリア様の右頬に傷があるのは、盗まれた際にできた傷だそうです。その傷から、かつて血が流れたという言い伝えがあります。実際、今にも血が流れてきそうな気配さえします。マリア様の顔が黒くなったのは、長い間経つうちに顔が黒ずんできたのだそうです。
博物館には世界の著名人が僧院に寄贈した貴重な品々が飾られています。ケネディ大統領からの贈り物やワレサ元大統領のノーベル賞のメダル。マリア像のための4種類のドレスやベールも飾られ、顔の部分をはめ込んでドレスを着替えてもらうのだそうです。マリア像は誰からも愛され続けてきたのです。静寂と荘厳な空気の中で、真剣な面持ちでミサをする多くの人々。私もここでは信者になった気持ちで黒いマリア様に見入ってしまいました。心の中は幸せな感動の気持ちで満たされていたのです。奇跡の教会は本当に素晴らしい、まさにパワースポット以上の場所だと感じました。
最初は予定していなかったこの地を訪問したことは、今にして思えば運命だったのかもしれません。知人にもらったメモを捨てなかったのも、とても大切なことだからおろそかにはできないと心の底で思い続けていたからなのでしょう。結果的に、私にとってチェーンストホーヴァは生涯忘れることのない聖地となったのです。
世界遺産の平和教会を訪れて
ヴロツワフの南西車で約1時間余り走ると存在するのが、ヤヴァルとシフィドニツァ教会です。これらの教会は、宗教改革の末に生まれた平和を象徴した木造教会です。木のぬくもりを感じるとともに木造とは思えない荘厳な内装は見るものを圧倒します。
618年から1648年まで、ヨーロッパでは歴史上有名な宗教戦争である30年戦争が起きました。その戦争で敗れたプロテスタントの信者が多かったこの地で、カトリックの支配下にありながらも、プロテスタントの教会の建設が許されたのは異例なことでした。
ただし、その建築には厳しい条件が課せられました。それは石やレンガは使用せず、木と粘土と藁だけで10か月以内に造ること。カトリック教会のように塔を建てないことなどが条件でした。そうしてできた3つのうち1つは火災で焼失し、残るヤヴォルとシフィドニツァ平和教会が世界遺産に登録されています。質素な木造の外観ですが、収容規模はなんと6000人~7000人!その内部に入ると天井や壁面を埋め尽くす美しい宗教画や大きなパイプオルガンが厳かな空気を生み出しています。
こちらはチェーンストホーヴァの僧院とは全く趣が異なるものの、その成り立ちのストーリーを聞くと、これも大切な聖地と呼びたくなる教会に他なりません。
まとめ
ポーランドには秘めたる見どころ、隠しておきたいほどすばらしい聖地があります。ポーランド旅行を予定しているなら、クラクフなどの大観光地だけでなく、ぜひこうした聖地や教会にも足を延ばしてほしいと思います。