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世界中にプロヴァンスの名を広めるきっかけとなった「南仏プロヴァンスの12ヶ月」という本をご存知でしょうか。ピーターメイル氏によって1989年に発行されたこちらの本。南プロヴァンスに移り住んだ彼が体験した12カ月を綴ったエッセイですが、多くの言語に翻訳され大ベストセラーとなりました。
暖かな陽光がオリーブ畑を照らし、ラベンダーの香りが爽やかな風に乗ってやってくる…パリのような目を見張る華やかさはないものの、プロヴァンスにはのどかで美しい自然と、素朴なフランスの姿があります。
ここではそんな南仏プロヴァンスの小さな田舎町についてご紹介。これを読んで是非興味を持っていただけたら幸いです。
プロヴァンスは田舎に訪れたい
誰もが一度は憧れるプロヴァンス。私たち日本人が聞き馴染みのあるのはアヴィニョンやエクサンプロヴァンスといった町でしょう。しかしプロヴァンスの真の魅力を知るにはもっと小さな田舎町や小さな村に訪れてみるのがオススメです。
観光客も少なく、ゆったりとした時間が流れるプロヴァンスの村。太陽の光が燦燦と降り注ぎ、色鮮やかな花が咲き乱れる…食卓には地元で採れた瑞々しい野菜や香り高いハーブにオリーブオイル、地中海の新鮮な魚、そしてローヌのワインなど素朴なフランスの味が並びます。フランスの中でもとりわけ食材に恵まれたこの地域では、私たちが想像するような凝りに凝った濃厚なフランス料理の姿はありません。爽やかな陽光を受け育った食材はその味を生かすようなシンプルな料理へ生まれ変わり、私たち旅人の舌を唸らせます。
パリの喧騒から離れたこの小さくも美しい町は、きっと虜になること間違いなし。多くの芸術家が愛したプロヴァンスへ出かけてみましょう!
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プロヴァンスの小さな町は立ち寄るだけではもったいない
皆さんは「フランスの最も美しい村」運動というものをご存知でしょうか。小さくても素晴らしい景観を持つ村の観光を促進する目的で設立されたこの協会。今では日本でもこのフランスの運動にあやかって「日本で最も美しい村」連合なんてものも出来ています。
ではこの「最も美しい村」に認定されるための条件は一体何なのか。基準はいくつもありますが、簡単に言うと人口が2000人未満であること。2つ以上の遺産や遺跡があり、その保護活動を行っていること。そして自治体の議会で同意が得られていること。以上3つが挙げられます。2018年現在158の村がこの「美しい村」に認定されていて、その景観を保全するための活動が行われています。こうしたフランスで最も美しい村はフランスの中でもとりわけプロヴァンスに多くあるのです。
それぞれ異なった魅力を持つプロヴァンスの村。サッと見て観光終了じゃあもったいない!観光大国フランスでのんびりと旅を楽しみたいなら小さい村へ訪れて、そこで1泊してみるのが1番なのです。早朝まだ観光客がいない時間に町をそぞろ歩いてみたり、夜には町のレストランで地元の美味しいワインを飲んでみたり…都会とは違うフランスの新たな魅力を探しに小さな村へ足を運んでみては?
赤茶色の町ルシヨンとル・クロ・ド・ラ・グリシーヌ
「オークルの村」と呼ばれるルシヨン。オークルとはこの一帯でとれる赤土であり、かつては黄色顔料としても使われていたもの。この小さな町ではそんな赤土で造られた建物が建ち並び、町全体が赤茶色の美しいグラデーションカラーをしています。陽の当たり方によって都度違う表情を見せるルシヨンの町並は、是非とも1泊して味わいたいもの。
そしてそんな美しい町の中心にあるロマンティックなオーベルジュこそが、ル・クロ・ド・ラ・グリシーヌ【Le Clos de la Glycine】です。わずか8室という小ぢんまりとした宿でありながらオークの崖や広大な谷などレストランからの眺めも抜群です。内装も可愛らしく、どこか別荘のような雰囲気もあります。
町を散策するのにも非常にアクセスのいい場所なので、ここを拠点にして出かけてみてはいかがでしょう。遠目に見るのも美しいルシヨンですが実際に歩いてみるとそのまた違った良さを感じられるはず。絵に描いたような温かみのある町並みや南仏特有の青い窓、可愛い雑貨屋さん、カフェなどなど見ているだけでもワクワクさせられるのです。
天空の村ゴルドとレ・ボリー
プロヴァンス=アルプ=コートダジュール圏にあるゴルドは、丘に建つ田舎町です。リュベロン山地に向かい合うようにしてそびえる標高373mの丘の上、断崖に張り付くようにしてゴルドの町並みが広がります。まるで空に浮いているように見えることから「鷲の巣村」という別名を持ち、まさに天空の城という言葉がふさわしい出で立ちです。
薄い石を綺麗に積んだような石造りの建物は「ボリー」と呼ばれ、ここリュベロン地方の独特の建築様式なのだとか。村の中は細い石畳が続いていて、雰囲気抜群。坂が多いのでスニーカーなど歩きやすい格好で行くのがオススメです。
リュベロン地方で最も人気のある「フランスの最も美しい村」の1つゴルドは、城の周りにギャラリーや土産物屋、カフェなどが建ち並び賑わいを見せます。しかし少し脇道へ逸れると人の姿も少なくなり、静かに村を散策することが出来るのです。政治家や文化人の別荘も多いらしく、シャガールをはじめ多くの芸術家たちも魅了されたのだと言います。
また村の近郊にはリゾートタイプのホテルがいくつか存在するのですが、その中でも特に勧めたいのがレ・ボリー&スパ【Les Bories & Spa】というオーベルジュ。8ヘクタールにもなる広大な敷地に広がるこのホテルは、洗練されたモダンな空間。ミシュラン1つ星のレストランで美しい景観を楽しみながら贅沢なひと時を過ごしてみては?
オリーブ畑に囲まれたルールマランとオーベルジュ・ラ・フニエール
ルールマランは高級住宅地として知られており、リュベロンの他の村にはない洗練された空気が漂います。山あいにあるとは思えないほどお店も建物も高級志向で、住民向けと言うよりは、別荘を持つパリジャンや富裕層向けのものがほとんど。しかし一歩村の外へ出るとオリーブ畑や果樹園に囲まれた緑豊かな場所なのです。かつてリュベロンのメネルブで「南仏プロヴァンスの12カ月」を書いて有名になったピーターメイル氏が一度この地を引き払って、その後またお忍びで暮らしていたという噂があるこの町。また作家アルベール・カミュも晩年この村に家を買って移り住み、村はずれの墓地に埋葬されています。多くの作家たちに愛されたルールマラン。きっと村を見てまわっていればその理由を肌で感じることができるはず。
そんなルールマランでオススメの宿がオーベルジュ・ラ・フニエール【Auberge La Feniere】です。18世紀のオリーブオイル製油所を改装したこちらのホテル。古い石作りの建築とプロヴァンスらしい内装が調和して素敵な雰囲気が漂います。大きなプールや広々としたお庭など、きっとくつろげること間違いなし。ルールマランの村の中にあるという立地の良さも素晴らしく、観光の拠点としても便利なホテルなのです。
有名人が別荘を持つ人気のボニューとラ・バスティード・ド・カプロング
多くの映画スターや政治家が別荘を持つというプロヴァンスの田舎町ボニュー。「フランスの最も美しい村」の規定から外れているため選ばれてはいませんが、南仏らしい景観が魅力の可愛らしい町です。観光客も多くなく、昔の建物がそのまま残るこの町は、のんびりするにはうってつけ。
ボニューのシンボル的存在である教会は勿論のこと、近くにある展望台に行ってみると良いでしょう。ボニューはどこにいてもプロヴァンスの雄大な景色を眺めることが出来ますが、展望台から見おろす景色は格別です。
そんなボニューでの宿泊は、ラ・バスティード・ド・カプロング【La Bastide de Capelongue】で。「バスティード」とはフランス語で「プロヴァンス風の大邸宅」という意味。その名の通り広々として高級感あふれるこのオーベルジュは、南仏の名シェフ、エドワール・ルベ氏がオープンした場所。なんとホテル内のレストランはミシュラン2ツ星を獲得しているというから驚き。白を基調としたエレガントなレストランに緑いっぱいの庭から光が差し込んで雰囲気も抜群です。私は昔このレストランでランチをしたことがあるのですが、ミシュラン2つ星店としてはかなりリーズナブルに豪華なランチをいただくことができました。またホスピタリティも素晴らしく、食後は庭で自ら水撒きしていたシェフとその愛犬スカッチと庭で遊ばせてもらったのでした。大都会パリでは味わえないような人とのふれあいは田舎町ならでは。是非美しい景色、美味しい食事を求めてボニューへ訪れてみてはいかがでしょう。
フランス最初のAOCワイン シャトー・ヌフ・デュ・パプとオステルリー
シャトー・ヌフ・デュ・パプと言えばワイン好きで知らない人はいない町。南フランスを代表するワインの産地ローヌ地方において、最高峰と言わしめるワインがつくられているシャトー・ヌフ・デュ・パプ。「法王の新宮殿」という名の通り、ローマ法王庁がアヴィニョンにあった時に法王がブドウ畑をつくらせたという古い歴史があります。また、フランスで最初のAOC認定地でもあります。
そもそもAOCとは何なのか。簡単に言うならば、公的にその商品にお墨付きを与えることを言います。例えば日本では夕張市で採れたメロンだけが「夕張メロン」を名乗れますし、「神戸牛」は兵庫県で生産されたごく一部の限られた牛にのみ適用されますよね。このような「原産地統制呼称制度」は非常に重要で、偽物を生まない対策としてフランスではかなり早い段階から採用されています。
他にもシャンパーニュ地方でつくられたスパークリングワインだけが「シャンパーニュ」を名乗ることを許されているなど、ワインに厳しいルールを設けているフランス。そしてそんなAOCワインの中でもシャトー・ヌフ・デュ・パプは最も早く認定を受けた特別なワインなのです。
では一体なにが他のワインと違うのかと言うと、答えはその土壌にあります。シャトー・ヌフ・デュ・パプのブドウ畑の特徴は、こぶし大の石がゴロゴロと転がり地面を覆い尽くしていること。そんな一見農業に不向きな土地ですが、それこそが美味しいブドウが出来る秘訣。ブドウは厳しい環境であればあるほど深く根を張り、ミネラル分の多い地下水を吸い込むのです。また地面に転がる石も重要な役割を果たしていて、日中に太陽の光で温められた石が夜には保温の役割を果たします。こういった要素が合わさり、この地のブドウは他に無い芳醇で力強いワインになるのです。
そしてそんなシャトー・ヌフ・デュ・パプでオススメなのがオステルリー・デュ・シャトー・デ・フィヌ・ロッシュ【Hostellerie du Chateau des Fines Roches】というホテル。名前にシャトーとあるように、かつては城として使われていたもので、まるで中世の要塞のような趣があります。すべての部屋からブドウ畑が見渡せるというロケーションも良く、美味しいワインと料理を楽しむのにぴったりのホテルです。
美しい港町カシとワイン
マルセイユ近郊にあり地中海を臨む町カシ。マルセイユやエクサンプロヴァンスなどの大きな街から車で1時間ほどで行けることもあり、リゾート地として人気の高い場所ですが、実はワインの名産地としても知られています。
プロヴァンスはフランス最大のロゼワインの産地。現にこの地域で作られているワインの9割はロゼなのですが、カシはプロヴァンスでは珍しい白ワインの産地なのです。その味はスッキリとしたキレがあり、豊富なミネラル感が特徴的です。
プロヴァンス地方の郷土料理であり日本でも有名なブイヤベースがありますが、実はカシの白ワインが欠かせない料理の一つ。元々は売れ残りの魚介をごった煮にしたのが始まりですが、それを料理人が客に出せるような代物へと改良したのが現在のブイヤベースなのです。爽やかな風味が特徴のカシのワインは魚介類にピッタリで、まさにこの町にふさわしいワインなのです。是非カシを訪れた際には本場のブイヤベースや魚介類をカシのワインと共に味わってみてください。
星に守られた町ムスティエ・サントマリーとアランデュカスのオーベルジュ
ムスティエ・サントマリーは山岳地帯にある小さな田舎町。村を見下ろす2つの切り立った岩山は鎖で繋がれており、その中央には銀色の星が輝きます。何故このようなものがあるのかと言うと、その昔パレスチナに囚われた十字軍騎士が故郷に無事生還できたことに感謝してこの場所に星を掲げたのだとか。以来何世紀もの間その星は町を優しく見守っており、ムスティエ・サントマリーは「星に守られた町」と言われているのです。
そしてここムスティエ・サントマリーはアランデュカスが経営するオーベルジュ、ラ・バスティード・ド・ムスティエ【La Bastide de Moustiers】があることで知られています。アランデュカスと言えば誰もが知る料理のスペシャリスト。史上最年少でミシュランの3つ星を獲得し、彼の経営するパリ、モナコ、ロンドンのレストランはすべて3つ星を獲得しているというから驚きです。日本でもベージュ アラン・デュカスというフレンチレストランやル・ショコラ・アラン・デュカスというチョコレートブランドが人気を集めていて、まさに料理界のトップに君臨する人間と言っても過言ではありません。
12ある客室はそれぞれ花や果実の名前を冠しており、部屋名に合った可愛らしい内装が特徴的です。そしてオーベルジュの楽しみと言えばやはり食事。しかもそれがアランデュカスプロデュースとなれば尚更です。本人は駐在していないものの、自家農園で採れた野菜やハーブを使った料理が味わえます。
周辺の街歩きはもちろん、オーベルジュのレストラン以外にも美味しいお店があるので、グルメ目的で訪れてみてはいかがでしょうか。
ブドウ畑の古城ホテル シャトー・ド・ベルヌ
ニースから車で1時間半ほど走った場所にある古城ホテル、シャトー・ド・ベルヌ【Chateau de Berne】。広大な敷地にはブドウ畑やワイナリーまであって、ゲートからホテルの玄関まで延々と車で10分ほど走っていくほどの広さに驚かされます。
古城ホテルと言っても古びた感じは一切なく、白を基調としたインテリアは爽やかな印象すら抱きます。レストランはトラディショナルなものとガストロノミーの2つがあって、敷地内でつくられたワインと共に豪華な食事を楽しめます。伝統的なフランス料理は重ためのソースを使った料理が基本ですが、ここの料理はそれと比べると驚くほど創作的。フォアグラになんと高菜を合わせたり、そこかしこに日本の食材が散りばめられていて、まるで日本人シェフが作るフランス料理のような印象を受けました。
料理は勿論のこと、敷地内のワイナリーで試飲を楽しんだり、スパでマッサージを受けたり、プールで泳いだりと、ゆったりくつろいでグルメを楽しみたいホテルです。
まとめ
いかがでしたか?プロヴァンスの田舎にはパリのような華やかさはないものの、のどかな自然や美しい町並みなど、素朴で温かいフランスの姿がそこにはあります。一度訪れたらきっと魅了されること間違いなし。さあ新しいフランスを求めてプロヴァンスへ足を延ばしてみましょう!