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今、北欧映画が熱い!
2000年代以降は北欧資本あるいは北欧が舞台の映画の話題を多く耳にするようになりました。
2000年にカンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得したラース・フォン・トリアー監督『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を皮切りに、2002年にはフィンランド出身の名匠アキ・カウリスマキの『過去のない男』が第55回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞。2000年代後期から2010代初期にはスウェーデンの作家スティーグ・ラーソンによる『ミレニアム』シリーズが世界的な大ヒット。ハリウッドでリメイクされたことも記憶に新しい方は多いでしょう。
そして2020年日本でも大ヒットしたホラー映画と言えばアリ・アスター監督の『ミッドサマー』。ホラーとはいざ知らず、北欧の伝統的な衣装に身を包んだ人々の可愛らしいビジュアルに惹かれて鑑賞された方にとっては本当に悪夢のような2時間だったかもしれません(笑)。
今回は北欧に行きたくなる傑作揃いの北欧映画8選をお届けします!
ミッドサマー(2019年)
2019年のアメリカ・スウェーデン合作のホラー映画。監督は前作の『ヘレディタリー/継承』が長編デビュー作ながらも「ここ50年のホラー映画の中の最高傑作」とまで言わしめた新鋭アリ・アスター。
物語は過去に妹と家族を亡くした苦い経験を持つアメリカの女子大生のダニーを中心として進みます。同じ大学に留学しているスウェーデン人の友人に「90年に1度しか開催されない夏至祭に来てはどうか」と誘われ、スウェーデン北部の村・ホルガに行くことに。
そして太陽が沈まない白夜の日に恐怖の祝祭が始まる・・・。
スカンジナビアの北部にはサーミ人など、独自の文化・風習を持って暮らしている人たちがいることは確かですが、作中に登場するホルガ村は全くの架空の村で、こんな恐ろしい伝統はスウェーデンどころか、どこにもありません(笑)。
しかし北欧特有の真っ青に澄んだ空と草木が咲き乱れる美しい草原のイメージは、視聴者に強く印象を残すことでしょう。
私自身もこの映画をみて夏の北欧に行ってみたくなりました。もちろん凄惨な目には逢いたくありませんが。。。
サーミの血( 2016年)
2016年のスウェーデン・ノルウェー・デンマーク合作映画。ヴェネツィア国際映画祭にて新人監督賞、北欧最大の映画祭・ヨーテボリ国際映画祭では最優秀ノルディック映画賞など世界各国の映画賞を総なめにした作品。
舞台は1930年代のスウェーデン北部のラップランド。主人公はサーミ語を禁じられた寄宿学校に通う少女エレ・マリャ。流暢なスウェーデン語を話し、成績も優秀なエレは都会の学校へ進学ができるほどの学力を持っていましたが、教師から「あなたたちの脳は文明に適応できない」と告げられます。諦めきれないエレは夏祭りで偶然出会った少年・ニクラスを頼りに、故郷を離れ都会へ家出をするが・・・。
この映画を見るまで、独自の言語や文化・風習を持ち、長い間差別的な扱いを受けてきた北欧の少数民族が居ることは私自身、恥ずかしながら知りませんでした。サーミ人についての基礎知識を知るための映画ではありませんが、鑑賞後強く印象に残ったのはサーミ人の少女達が身につける伝統衣装や伝統歌唱であるヨイクです。
この作品を見て、日本人として考えさせられるのはアイヌ民族。アイヌ人もサーミ人同様に差別され、素性を隠し日本人と同化する道を選びました。私達は美しいアイヌの文化・伝統を今ではほとんど見ることができない時代を選んでしまったのです。そしてこの人種やマイノリティの差別は決して過去のことではなく現在も続いている問題なのです。
ボーダー 二つの世界(2018)
2018年のスウェーデン映画。第71回カンヌ国際映画祭ではある視点賞、第91回アカデミー賞ではメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされました。原作は00年代を代表する北欧ミステリー映画『ぼくのエリ 200歳の少女』と同じヨン・アイビデ・リンドクビスト。
始まりの舞台はスウェーデンの港の税関。税関職員であるティーナは到着ゲートに立ち、乗客の中から1人の若い男性を呼び止めると職務室へ連行させます。未成年と思われる男性のバックの中には持ち込みが禁止されると思われる大量のアルコールが。どうやらティーナは人の罪悪感や羞恥心を臭いとして嗅ぎとれる特殊能力の持ち主らしいことがわかります。そんな事務的な仕事を行うある日、自分と風貌の似た旅行者ヴォーレと出会いますが・・・。
ミステリーに定評のある北欧映画の中で、近年の大傑作と言えばこの作品です。
事件を追う謎解きに加え、サスペンスやファンタジーの要素を取り込んだ本作は、予測不能で衝撃のラストまで目が離せません。
差別される側の生きづらさを描いているという点で言えば、先ほどの『サーミの血』と共通しているかもしれません。
あまりにリアルな描写から万人におすすめできる作品ありませんが、心のひだに入り込み余韻を残す作品となっています。
鑑賞後は北欧の美しい自然を見ると、ひょっこりティーナやヴォーレが出でくるのでは?と、そんな気持ちにさせてくれます。
アナと雪の女王(2013年)
もはやこの作品に説明を加えることは野暮かもしれません。
アカデミー長編アニメ映画賞を受賞したウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ製作の3Dコンピュータアニメーション作品。北欧が舞台の映画を紹介するなら、このディズニーのアニメーション作品を紹介しない分けにはいきません。「レリゴー」で日本でも旋風を巻き起こした“アナ雪”です。
舞台は北欧のとある王国・アレンデール。主人公は王家の姉妹、エルサとアナ。姉エルサは触れたものを凍らせたり、雪や氷を作る魔法の力を持って生まれました。女王として即位する戴冠式の日、とある出来事でエルサの力が暴走してしまいます。夏の王国だったアレンデールはエルサの魔法により永遠の冬の国へと閉ざされてしまうことに。責任を感じたエルサは王国を逃げ出し、人里離れた場所で自分を抑えつけるのをやめ独りで生きていく決意をしますが・・・。
何よりこの『アナ雪』が新しかったのが、王子様と結ばれることがハッピーエンドなのではなく、如何に生れながらにして持っているモノを否定せず肯定しながらどのように前に進んでいくかをテーマにしている点でしょう。
つまりディズニー自身が過去つくり上げてきた「幸せの価値観」を根底から揺るがす意欲作でもあります。
ちなみにアレンデール王国はノルウェーのベルゲン、アレンデール城はオスロ郊外のアーケシュフース城がそのモデルだと言われています。
かもめ食堂(2006年)
日本映画の中でも珍しい北欧ロケの代表作がこちら。日本で大ヒットしたのでご覧になった方も多いはず。すでに公開から15年以上経っているにも関わらず、根強い人気を持つ作品です。
舞台はフィンランドのヘルシンキ。日本人女性サチエが1人で切り盛りする「かもめ食堂」はオープンしたばかりであまり客は入ってきません。ある日、ようやくお客がお店に入ってきたもののその青年は「ガッチャマン」の歌詞を教えて欲しいと言います。「ガッチャマン」の歌詞を思い出せないサチエは、偶然図書館でムーミンの本を読む日本人女性ミドリに声を掛け、ミドリから「ガッチャマン」の歌詞を教えてもらうのですが・・・。
『かもめ食堂』は自立した女性が、可愛いものを探したり美味しいものを食べるために、ぶらっと海外へ旅行する“女子旅”が一般的になった大きなきっかけになった作品だと思います。この映画のヒット以降、お決まりの観光地巡りやお仕着せのツアーでなく、ガイドブックを片手に自分が好きなモノだけを楽しむ女性の旅行者が増えた気がします。この映画で描かれる3人の女性は、特にフィンランド成し遂げたい大きな希望や野望を持っているわけではありません。たまたまフィンランドにきて意気投合し、美味しそうな料理とともになんともゆるい日常が描かれるだけです。ストーリー上、舞台がフィンランドでなければならないという必要性も見当たりません。
しかしこの作品は不思議な魅力を秘めています。
まず鑑賞してしばらく経つと「どんな話だっけ」と内容を思い出せなくなります。それで気になって改めて見てみるのですが、またしばらくすると内容を忘れてしまい、また見たくなってしまうのです(笑)。
そういった意味では私もこの作品の術中にはまっているのかもしれませんね。
ファブリックの女王(2015)
ここから2作は現在の北欧を代表するブランドについての物語を紹介します。
まずは『ファブリックの女王』。こちらはフィンランドを代表する「マリメッコ」創業者のアルミ・ラティアの波瀾万丈の人生を描いた作品。監督は初期マリメッコの役員であり、フィンランド人で唯一のオスカー受賞者であるヨールン・ドンネルです。
舞台はヘルシンキですが、物語はアルミを演じる女優視点の劇中劇という構成で進みます。
戦後まもない1951年にマリメッコを創業したアルミは、社会進出する女性のための新しい時代のライフスタイルに合わせたファブリックを作ることに日々情熱を注ぎます。途中、何度も襲いかかる破産の危機、夫や家族とのトラブルに見舞われますが・・・。
北欧ブランドの中でも、一見おとなしい印象のあるマリメッコ。控えめなデザインの裏にはこんなに情熱に燃えた破天荒な社長がいた事に驚きました。いつの時代も、1人の天才が時代を切り開くのかも知れません。
そして印象的なのは作中の、創業者アルミ・ラティアに対する徹底的にドライな演出方法。決して持ち上げたり、貶めたりすることはなく淡々と描いているため、視聴者によっては「マリメッコもう買わない!」という人も出てきてもおかしくないと思いました。情に流されない冷めた視点はなんとも北欧らしいと感じました。
ちなみにマリメッコ(Marimekko)とはフィンランド語で「小さなMariのための服」を意味し、MariはArmiのアナグラムになっているのだとか。
ハロルドが笑う その日まで(2014年)
もう1つ北欧ブランドの代表といえばIKEA。
IKEAを題材にしたノルウェー・スウェーデンの合作映画がこちら。この作品はノルウェーのアカデミー賞と言われるアマンダ賞2冠に輝きました。
舞台はノルウェーの田舎町。40年続く高品質にこだわった家具店の近くにIKEAができたところから物語は始まります。家具店を営むのはハロルドと認知症を患った妻・マルニィの老夫婦。IKEAが出来たことで、徐々に生活が苦しくなっていくハロルド家。そんなとき、心労が原因となったのかマルニィの病状が悪化し急逝してしまいます。絶望の淵に立たされたハロルドはIKEAの創業者であるカンプラードを誘拐しようと企てますが・・・。
高品質にこだわった家具店の店主・ハロルドと北欧を代表するグローバル企業のトップ・カンプラード。
一見すると全く違う考え方を持っている2人ですが、とある出来事をきっかけ対照的な2人の人生が交差する事になります。豊かに見えるカンプラードが抱える苦悩とはなんなのでしょうか?存命だったIKEA創業者を描く作品という前代未聞の作品ですが、私もハロルド同様、カンプラードの言葉にハッとさせられることが多くありました。そしてスウェーデンとノルウェーの国民性の違いを知る上でも非常に興味深い作品です。
日曜日の昼下がりにこたつにでも入りながらぬくぬくと鑑賞したい作品です。
LIFE!(2013年)
2013年のアメリカ映画。監督と主演はコメディー俳優のベン・スティラー。ジェームズ・サーバーの短編小説が原作の「虹を掴む男」(1947)を新たに映画化したのが本作。アメリカ映画ではありますが主な舞台となったのがグリーンランドとアイスランドです。
LIFE誌の写真管理者として毎日地下鉄に乗って通勤し、変化のない日々を過ごすウォルター・ミティ。彼の楽しみと言えば写真家が航空便で送ってくれた写真をみては空想にふけること。そんな折、LIFE誌の廃刊が決定します。最終号の表紙に指定された写真が、写真家から送られてきたネガにはない事に気づいたウォルターは写真家探しの壮大な旅にでますが・・・。
数ある映画の中でも珍しくアイスランドとグリーンランドがロケ地として撮影された本作は、美しい極北の風景を見るだけでも価値がありますが、何よりも「何者でもなかった」主人公が旅の後に「何者かであった」事を発見する、つまり自己発見がテーマということです。
まさにここに私達が海外旅行が好きな本質的な理由が詰まっているように感じました。他の人よりもちょっと自慢できる体験がしたい、冒険心溢れる人生を過ごしたい、そんな些細な願望が人を旅に駆り立て人生を豊かにしていくのかもしれません。
海外旅行が難しいコロナ禍の今、旅とは何か?人生とは何か?を考えさせてくれる作品です。
番外編:サウナのあるところ(2010)
番外編として最後にご紹介するのは、フィンランドのサウナを舞台にした2010年の映画『サウナのあるところ』です。
この映画はストーリーのようなものは一切ありません。サウナに入ったおじさんが入れ替わり立ち替わり、自分の身の上話を延々と語るという変わったドキュメンタリーです。
映画として捉えると、かなりゆるい雰囲気の中でのおじさん達のとりとめのない会話を聞くはめになりますので、寝る前などリラックスした状態で鑑賞するのがおすすめです。
確かにサウナに限らず、入浴中は何か考え事をしてしまうことってありませんか?シャワーを浴びているときに、蓋をしておいたはずの過去の恥ずかしい記憶が突如蘇ってきて「いやぁぁ!!!」と叫びだしたくなる経験、私はあります。
どうやら入浴は“アウトプット”に最適な場所という研究結果もあるのだとか。
しかし屈強なおじさん達が途中でメソメソし出す姿や、話を聞いているおじさんも言葉少なに感じ入っている様子は、笑っちゃいけないのでしょうがなんだか可笑しさがこみ上げきます。
フィンランドのサウナ文化を知るのにはこれ以上ないうってつけの作品です。何しろ90分の全編を通してサウナとおじさんしか映っていないのですから!
いかがでしたか?
今回は北欧を舞台にした作品をご紹介いたしました。
2021年には海外旅行できる日が来ることを願って、今のうちにしっかり北欧熱(?)をじわじわ蓄えておきましょうね!