目次
キプロスと北キプロス。同じ島にあるのにもかかわらず、何故か名前を変え分裂してしまったこの2国。日本人にはあまり馴染みのない国なので、そもそもどこにある国なの?と思われる方も多いでしょう。
しかしキプロスはあのギリシャ神話で有名なヴィーナスが誕生した地であり、考古学上で重要な遺跡が数多く発見される非常に興味深い国なのです。
今回は実際に訪れた経験をもとに、キプロスと北キプロスの両国についてご紹介していければと思います。
キプロス&北キプロスってどんな国?
地中海に浮かぶキプロス島。四国の半分ほどの面積を持つこの島ですが、北と南で全く違う国であることをご存知でしょうか。そもそも何故「キプロス」と「北キプロス」で分けてお話しているかというと、この2つが“一応は”違う国とされているからです。
なんだか煮え切らない文ですがそれもそのはず。実は北キプロスを国として認めているのはトルコのみ。トルコの後ろ盾でキプロス島の北半分を「北キプロス・トルコ共和国」として独立をさせた北キプロスですが、結局今でもトルコ以外からの国家承認は得られないまま。しかしながら、キプロスからの実効支配は受けていないという何とも微妙な立ち位置にある国なのです。
かつては内戦をしていたという両国ですが今ではそれも無くなり行き来も自由にできます。町全体が世界遺産のパフォスや、キプロス第2の都市でワインの生産地として有名なリマソル、世界遺産のキッコー修道院、地中海を臨むビーチリゾートなど、さまざまな魅力を併せ持つ両国。未知の国キプロス&北キプロスは観光資源の宝庫とも言える国なのです!
キプロスと北キプロスって何が違うの?
先述した通り同じ島にあっても全く別の国であるキプロス&北キプロス。では具体的に何が違うのかというと、両国の辿ってきた歴史に関係があります。
そもそもギリシャ系の国民が多く住んでいたこの島。1571年にオスマン帝国がこの地を支配したことがきっかけでキプロスの歩む道は大きく変わることになります。特に帝国の影響が大きかった北では多くのトルコ人が流入。教会を壊してそこに新たにモスクを造るなどの行為が繰り返されました。
キプロス紛争以降、北キプロスにはトルコ系住民が、キプロスにはギリシャ系の住民がわかれて暮らしているのです。人種が違えば環境も違うのは当然。キプロスがギリシャ正教でユーロを使用するのに対して、北キプロスではイスラム教が信仰され、主な通貨はトルコリラとなっています。物価もユーロを使うキプロスのほうが高く、同じ島にありながら食文化にも差が見られるのが非常に興味深いところでしょう。
せっかくキプロス島に訪れるなら両国を巡ってその違いを楽しむのがオススメです。
世界唯一の分断都市ニコシア(レフコシア)
今でこそ互いに平和を望み落ち着きを見せている両国の関係ですが、かつては幾度となくギリシャ系住民とトルコ系住民の間で紛争が起きていました。
その象徴ともいえるのがグリーンラインの存在です。キプロス島を南北に分断するこの停戦ラインは、1955年から続くキプロス紛争を抑え込むためつくられた折衷案。今でもその国境にはコンクリートの壁や有刺鉄線、監視塔などが置かれ、自由に出入りすることはできません。
ニコシアはそんなグリーンラインによって隔てられた分断都市。しかも両国とも首都をこの場所に置いており、複数の国が同じ都市を首都としているのは世界でもここだけの事なのです。
そんなニコシアは両国の歴史を知るのに最適な街。特に北キプロス側にあるセリミエ・モスクはオスマン帝国時代の支配を如実に伝えるユニークな建物で、一見の価値ありです。なんとここ元々は聖ソフィア大聖堂と呼ばれていたキリスト教会。大抵の教会は破壊されモスクへと建て替えられたものの、資金不足のため、この建物は外観をそのままに中身だけモスク仕様へと改装した、なんとも不思議な建物なのです。モスクなので中に入る時は勿論土足厳禁。教会のなかに絨毯が敷かれている様子はなんとも面白い光景です。
古代の女神に愛された町パフォス(キプロス)
かつてキプロスの首都として繁栄したパフォス。この町をひと言で言い表すなら「遺跡とビーチ」という言葉が相応しいでしょう。
ローマ時代のモザイク画が残るパフォス考古学公園や、要塞として活躍したパフォス城など、パフォスに点在する遺跡群。それらは歴史的価値から世界遺産にも登録されており、なんと今でも考古学的な発見が続いているというから驚きです。
また私たち日本人にはメジャーではありませんが、美しいビーチを持つことで知られるパフォスはヨーロッパ人に人気のリゾートでもあります。たくさんのリゾートホテルも建ち並び、エメラルドグリーンに輝く海は絶景!しかもパフォス近郊のペトラ・トゥ・ロミウという場所は、ギリシャ神話において重要な意味を持つ土地であり、あの愛と美を司る女神アフロディーテ(ヴィーナス)生誕の伝説の地とされています。古代よりアフロディーテ信仰の中心として多くの巡礼者が訪れるこの場所では、「ハート形の石を見つけた人は愛に恵まれる」という伝説も。パフォスに訪れた際にはその伝説に倣って探してみると面白いかもしれません。
山岳地帯にある世界遺産キッコー修道院(キプロス)
トロードスと呼ばれるキプロス中央部の山岳地帯は、世界遺産の教会が多く点在しているキプロスでも特に魅力的なエリアです。1952mの標高を持つオリュンポス山をはじめ数々の山が連なるこの場所は春にはハイキング、冬にはスキーと様々な楽しみ方が出来る行楽地でもあります。
しかしこのトロードス観光で外してはいけないのが、キッコー修道院の存在。標高1140mにあって年中涼しいこの山中でひっそりと佇む修道院は、多くの人々を惹きつけてやみません。
何度も火事に見舞われ現在の姿は19~20世紀にかけて建て直されたもの。そのため世界遺産には登録されていませんが、回廊にはいくつもの美しいイコンが描かれ、巡礼者を見守ります。ここの1番の目玉は聖ルカが描いた聖母マリアのイコン。その貴重さから本物は厳重に保管され見ることは叶いませんが、そのレプリカが飾られているので必見です。
また内部の黄金の装飾やイコンの数々も素晴らしく、その荘厳さには目を奪われるでしょう。写真撮影が不可なのが残念ではありますが、キッコー修道院は是非とも見ておきたいキプロス観光のNO.1スポットなのです。
北キプロスのプチホテル
北キプロスの宿で悩んでいる人に是非ともオススメしたいのが「ラピダガーデンホテル」というプチホテルです。ラプタさん一家が経営しているこのホテルは、アットホームで素朴な雰囲気が魅力。敷地内には様々なハーブを栽培しており、緑に囲まれた静かな空間が広がります。
ゆっくり休むも良し、観光の拠点として使うも良しのこのプチホテルですが、もし時間に余裕があるならママさんとの料理レッスンをトライしてみるのがオススメです。
キプロス名物「ボレック」は、鉄板で焼く平べったい挟み餃子のような一品。ミルクの入った柔らかな生地を薄く伸ばし、鉄板の上に広げ具材を挟むだけといういたってシンプルな料理ですが、焼きたてを頬張るとその美味しさにびっくり。具材はラムのチーズとミントを混ぜたものが一般的ですが、牛ミンチとセロリ、そして変わり種でアーモンドやシナモン、砂糖を使ったデザート感覚のボレックも味わえます。
なんとなく紛争などのネガティブなイメージがある北キプロスですが、実際に訪れてみると全く恐ろしいことは無く、こうした田舎のホテルでは人との温かなふれあいを楽しむことだって出来るのです。私も訪れる前はどこか北キプロスに対しておっかない印象を持っていましたが、こうやって現地の人と交流してみてその考えはガラリと変わりました。言葉は通じずとも一緒になって楽しめる料理レッスンは、是非とも体験したいオススメのイベントです。
フェニキア時代からの港町ギルネ(北キプロス)
トルコ人の間で人気の高いリゾート地ギルネ。今はリゾートというイメージの強いこの町ですが、元々はフェニキア時代から長い歴史の中で海上交易の要衝として栄えた場所です。まるでトルコの田舎港のような趣があるギルネは、町にケバブ屋さんがあったりどこかトルコの面影を感じずにはいられません。
ここギルネ観光の目玉の一つである「ベッラパイス修道院」は12世紀に建てられた修道院跡。地中海やギルネの町並みを見渡せる高台に位置し、回廊の美しいアーチが特徴的で、「白の修道院」とも称されます。
対して「キレニア城」は9世紀に建てられたお城。何度か改修された内部には難破船博物館というものもあり、なんと2300年前に沈んだ船を組み立て直して展示しているというから驚きです。そんなに昔から船を使って交易していたとは…中にはかつてオリーブオイルを入れて運んだとされる壺も発見されており、当時の地中海貿易を物語る貴重な遺産の数々がこのお城で眠っているのです。
すばらしき城塞都市ファマグスタ(北キプロス)
島の東端に位置するファマグスタ(ガズィマウサ)は海に面した港町。オスマン朝時代や英国植民地時代を経ても、それ以前のキプロス王国時代の面影が色濃く残るこの場所は、北キプロス最大の見どころが集まる土地でもあります。
その中でも特に素晴らしいのが「ララ・ムスタファバシャ・ジャーミイ」と呼ばれるモスク。先ほどご紹介したセリミエ・モスクと同様に、かつては聖ニコラス大聖堂としてキプロスの歴代の王の戴冠式も行われていた由緒ある教会でした。外観も壮麗ながら内部も白いアーチが連なる美しいつくりなのですが、こちらもオスマン帝国時代にモスクへと改修。今もなおモスクとして多くのイスラム教徒が訪れる場所になっています。イスタンブールにあるアヤソフィアも教会をモスクにしていることで有名で、しばらく使っていなかったのが、2020年再度モスクとして利用されるようになりました。ここ北キプロスのジャーミィも同様にとても稀少な存在と言えるでしょう。
またファマグスタにはシェイクスピアの「オセロ」という作品の舞台になった「オセロ城」などもあり、見どころが尽きないのです。
キプロス&北キプロスのツアー
同じ島にありながら完全に分断されているキプロス(南)&北キプロス。でもせっかく訪れるなら両方巡ってその違いを体感したいですよね。
グリーンラインによって隔てられている両国ですが、特に北から入国し南へ移動するのはトラブルが多いです。2国を周遊する際には、必ず南で入国してから北へと入るようにしてください。ただ、南で入国して北へ行き、再度南に戻って来る分には問題ありません。
かつては首都のニコシアに空港がありましたが南北の分断以降使われなくなり、両国ともに別の都市に空港を持っています。ただ北キプロスは国際的に認められた国ではないため国際線もトルコからのみ。日本から訪れるなら南側のラルナカ空港に降り立つのが一般的です。
教会やモスク、遺跡巡りをはじめ、ビーチでのんびりバカンスなど様々な楽しみ方が出来るキプロス&北キプロスのツアー。マルタやエジプト、ギリシャなど周辺諸国へも行きやすいので、一緒に巡ってみるのも一つの手でしょう。