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中東にあり、シリアやイスラエルと国境を接する国レバノン。2020年8月に首都ベイルートで爆発事故があったり、カルロス・ゴーン氏が国外逃亡した国としてなんとなく聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。日本に届いてくるレバノンのニュースと言えばこんなネガティブなものばかりで、なんとなく危ない国と思われるかもしれません。
しかし実際のレバノンは本当に親切な人が多く、歴史的に見ても非常に興味深い国。今回は実際にレバノンへ訪れた経験をもとに、この未知なる国の魅力についてご紹介していければと思います。
レバノンってどんな国?
レバノンは中東にありながら砂漠が無く豊富な水源がある国。キリスト教徒とイスラム教徒がちょうど半々くらいの割合で共存しており、かつては中東のパリと呼ばれるほど豊かで栄えていた場所でした。そんな状況が一変することになったのは、1970年代以降繰り返し起こっていた内戦のしわ寄せ。約25年間に及ぶ戦いはその規模から第五次中東戦争とも呼ばれるほどで、この国が現在のように貧困に苦しむ原因になりました。
とは言っても現在はそんな表立った対立や治安の悪さも少なくなり、旅好きから注目されている国。シリアとの国境など危険度の高い地域は依然ありますが、多くのレバノン人は親切な人がほとんどです。世界的にも重要な遺跡は勿論のこと、中東らしい町並みと欧米の文化やファッションがミックスした不思議な国は飽きることがありません。アラブの伝統衣装に身を包んだ人がたくさんいるかと思えば、夜バーやクラブに遊びに行く若者の姿が目立ったり、「レバノン」という国の特徴はその多様性にあるのかもしれません。
私は今まで何度かレバノンに訪れたことがありますが、2度目の訪問はちょうど東日本大震災が起こった2011年3月のこと。レバノンの人々は私たちが日本人だと知るやいなや「大変だったね」と優しく声を掛けてくれたのでした。その頃はちょうど東京で1日4時間ほどの計画停電が行われていた時期。「1日4時間も停電しちゃって不便だよ」と言うと「ははは、レバノンではそれが日常だよ!」と笑っていたのが印象的でした。どんなに厳しい状況でも笑い飛ばせてしまうレバノン人の陽気さは見習うところがあるなと感じました。
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フェニキア人とレバノン
レバノンと言えば歴史上大活躍した、フェニキア人が生まれた国。高度な文化を持ち、地中海貿易に従事していたフェニキア人ですが、彼らが世界に名を馳せるほど大きく成長できたのは、貿易に必要な船を用意出来たことが理由として大きいでしょう。古代における船と言えば材料は木。レバノンの国旗にも描かれている通り、この国は昔からレバノン杉と呼ばれる良質な杉の木が採れる場所でした。彼らはこの木を用いてガレー船を造り、木材を輸出することで全地中海へと進出していったのです。
フェニキア人が地中海地域で繁栄していたのは各地の遺跡が物語っています。特にチュニジアにあるカルタゴはフェニキア人の植民地として発展した商業国家。紀元前264年から3度にわたって繰り広げられたローマ帝国との争い、ポエニ戦争によって滅亡したものの、彼らが世界の歴史において重要な意味を持っていたことは誰もが知るところです。
100年以上続いたローマ帝国とカルタゴの覇権争いは、かなり拮抗したものだったのだと言います。もしこの戦争でフェニキア人が勝利していたら、現在のヨーロッパはきっと中東の雰囲気が漂う、今とは全く違った景色が広がる地域になっていたことでしょう。そういった歴史を知ってから訪れると、レバノン観光が何倍も楽しくなるはずです。
中東一の美食!?レバノン料理とは
「フランスの植民地だった国は料理が美味しい」というのは経験上高確率で当たっていると思います。そしてレバノンもかつてはフランスの支配下にあった国。中東料理は羊肉や香辛料を多用したクセの強いものが多いですが、レバノンの料理はと言うと、野菜や豆が中心のヘルシーで繊細な味つけが特徴的です。欧米諸国の、とりわけベジタリアンからの人気が高く、その美味しさは「中東で最も洗練された料理」との呼び声も高いのです。
そんなレバノン料理ですが具体的にどんな料理があるのかと言うと、代表的なものにホモス(ひよこ豆のペースト)、ババガヌーシュ(茄子のペースト)、ラブネ(ヨーグルトクリームチーズ)、キッベ(小麦とひき肉を団子状にして揚げたもの)などがあります。主食はホブスと呼ばれる薄焼きパンで、ホモスやババガヌーシュ、ラブネなどのペーストにつけて食べるのが一般的。
実はワインの産地として長い歴史を持つレバノン。世界で最も古いワインの産地の1つとも言われています。地中海性気候に属しているレバノンはワイン用のブドウの栽培にも適しているため、レバノンのワインは世界的にも高く評価されているのです。
中東3大遺跡・バールベック遺跡
シリアのパルミラ遺跡、ヨルダンのペトラ遺跡と並んで中東3大遺跡と言われているバールベック遺跡。かねてより豊穣な土地として交易の重要拠点であったバールベック。ローマ帝国時代には太陽神ジュピター、酒神バッカス、愛と美の神ビーナスに捧げるための神殿が建てられ、その規模はパルテノン神殿を遥かに上回ります。
残念ながらジュピター神殿とビーナス神殿は地震で倒壊してしまったのですが、それでも倒れた柱の大きさや残った遺跡の様子から、どれだけの規模のものであったのか推測できます。その歴史的価値と規模から世界遺産に指定されているバールベック遺跡は、レバノン観光最大の見どころなのです。
私がここに訪れたのはまだ中学2年生の頃。遺跡の価値も分からないやんちゃ盛りだった私は、アスレチック感覚で瓦礫から瓦礫へと飛び移って楽しんでいたことをよく覚えています。
バールベック周辺の治安は少し不安定で、悪くなることもあるので事前に外務省の危険度情報でチェックをしておくといいでしょう。
アルファベットの起源ビブロス遺跡
バールベック遺跡と並びレバノンの重要な遺跡として世界遺産に指定されているビブロス遺跡。今から7000年ほど前にフェニキア人がここビブロスに都市を築いたとされ、世界最古の都市国家とも言われています。私たちが普段何気なく使用しているアルファベットの元になった「フェニキア文字」の発祥の地でもあるビブロス。フェニキア時代にはビブロスからエジプトへとレバノン杉を輸出し、反対にエジプトからパピルス(紙)を輸入していたのだとか。聖書を書くために使用されていたパピルスは、更にビブロスの港からギリシャへと輸出。ビブロスという名前は、その聖書、すなわちバイブルという言葉が由来になっているとされています。
その後時代がいくつも移り変わり、ローマ帝国時代には劇場や列柱が造られ、中世には十字軍を迎え撃つための城壁が築かれるなど、様々な時代の遺跡が融合している場所なのです。ここビブロスはレバノンの歴史を知るのにぴったり。是非レバノンに訪れるならこの国の歴史を知った上で足を運んでみてください。
まだまだあるレバノンの世界遺産!
岐阜県ほどの小さな国でありながら、バールベック遺跡やビブロス遺跡など世界的な遺跡が集まるレバノン。しかしこの国の魅力はそれだけではありません。
国旗にも描かれ、歴史上重要な意味を持ったレバノン杉。聖書にも何度も登場することから、「神の杉」とも言われています。そんなレバノン杉の森があるカディーシャ渓谷は一見の価値あり。古代には中近東一帯に広く自生していたレバノン杉ですが伐採が進み、現在ではレバノンなどのごく一部の地域でしか見られない貴重な種となっているのです。そしてここカディーシャ渓谷はレバノンで1番の景観を誇り世界遺産にもなっている場所。希少なレバノン杉が群生している様子は圧巻です。
また20世紀中ごろに発掘されるまで謎に包まれていたアンジャル遺跡もユニークでオススメです。シリアとの国境付近、ベガー高原にあるこの遺跡は、8世紀イスラームのウマイヤ朝によって建設されたとされる城塞都市。遺跡の中にはイスラム権力者達の保養用の宮殿やモスク、公共浴場なども残っていて、非常に興味深い遺跡となっています。
レバノンへの行き方
レバノンの首都ベイルートへのフライトは現状直行便が無く、すべて乗り継ぎになります。カタール航空なら成田、羽田からカタールのドーハ乗り継ぎ、エミレーツ航空なら成田、羽田、関空からドバイ乗り継ぎで、またエティハド航空なら成田、中部からアブダビ経由で就航しています。また、ターキッシュエアラインズも成田、羽田よりイスタンブール乗り継ぎで就航し、こちらのフライトも人気が高いです。
欧州系のフライトもKLMオランダ航空、ルフトハンザ、エールフランスなども就航していますが、一旦欧州まで飛んで乗り換える必要があるので、所要時間もかかる上に料金も高いです。これらの航空会社はヨーロッパとレバノンを同時に周遊したいという人向けでしょう。周辺の国へのフライトは、エジプトのカイロ、ヨルダンのアンマン、キプロスのラルナカなどが便利です。
なお、レバノンの入国はビザが必要ですが、イスラエルの入国スタンプがパスポートにあると、入国できませんので注意が必要です。
レバノンのツアー
レバノンは小さな国なので6日間もあれば、この国を一周できます。レバノン1カ国の代表的なルートはバールベック遺跡、ビブロス遺跡、レバノン杉とカディーシャ渓谷、古都トリポリ、首都ベイルートをまわるルートです。この国には中東の国なら必ずある砂漠はありません。そのかわりに「中東のスイス」とも呼ばれる自然が残っています。標高2000m級のレバノン山脈が国の中央に位置し、冬には雪で覆われます。国内にはフェニキア、ギリシャ、ローマほかの各時代の歴史的な遺跡が点在し、観光の魅力度は決して低くありません。ただし、治安面では危険度が3の渡航延期勧告に当たるエリアのツアーは催行していません。
レバノンと周辺国のコンビネーションの人気も高いです。その場合レバノンでの滞在は2泊。ベイルートに滞在し、ビブロス遺跡に行くか、もしくはバールベック遺跡に行くかの選択です。3泊あれば両方に行けます。コンビネーションする国としては、ヨルダンとの2国周遊が一番のおすすめで、中東3大遺跡のバールベック遺跡とペトラ遺跡(ヨルダン)の2つに行くことが可能なのです。ヨルダンに行ったことのある人なら、キプロスとのコンビもおもしろいかも。レバノン、キプロス、北キプロスの3国周遊ができます。イスラム教とキリスト教が共存するモザイク国家レバノンと南北に分かれた分断国家キプロス。国の多様性を感じるという意味ではこれ以上の組み合わせはありません。
まとめ
いかがでしたか?内戦やカルロス・ゴーン氏のイメージからなんとなく危うい国というイメージがあるレバノン。しかし古代においてはその高度な文明から地中海地域の覇権を握り、今の我々の文化の礎を築いた国でした。是非実際に訪れて、文章だけでは伝わらない遺跡の壮大さを体感してみてはいかがでしょうか。