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中東地域にあり、何度も戦争を繰り返してきたイスラエルとパレスチナ。危険度的には問題が無くても「中東」と聞くだけで「なんだか危なそう」と感じる人もいるでしょう。
しかし実際に訪れてみるとそんな悪いイメージは払拭されるはず。勿論宗教上の対立は未だ続いてはいますが、観光地としてのイスラエルは他に類を見ない特別な場所。イスラム教、キリスト教、ユダヤ教3つの宗教の聖地が集うこの地は旅好きなら是非一度は足を運んでほしい国の一つです。
今回は前回に引き続き、イスラエルという国の魅力についてご紹介していきます。
死海に浮かぶ
ヨルダンとイスラエルの国境に広がる死海。塩分濃度が高いため身体が沈まず、プカプカと浮かぶことが出来る場所として知っている人も多いでしょう。その塩分濃度は30%にもなり、生き物が生息することは不可能。それゆえ「死の海」という名前がついているのです。
実は死海は海抜-430mという世界で最も低い位置にある湖。それゆえ酸素量も多く、その場所自体がヒーリングスポットとも言われています。きっと死海の周りにいるだけでなんとなく頭がクリアになったような気分を味わえるはず。
同じ塩水と言えども海水は「塩化ナトリウム」なのに対して死海は「塩化マグネシウム」。天然のミネラルが豊富に含まれる死海の水は肌に優しく、美容効果もあると言われています。普通に浮かんでその浮遊感を楽しむのは勿論のこと、死海の泥を身体に塗って泥パックを体験するのも死海に訪れる楽しみの一つです。
ただ塩分濃度が高いため顔を浸けるのは厳禁。目や口など粘膜に触れるとヒリヒリしてしまうので身体を浮かせるだけにしておきましょう。
天空の巨大要塞マサダ
あまりに死海の知名度が高すぎて知らない人も多いと思いますが、死海のほとりには世界遺産にも指定されているマサダと呼ばれる難攻不落の要塞があります。ここは2000年以上前にユダヤ人がローマ軍から逃れるために籠城戦を繰り広げた天然の要塞。高さ400mの山頂をまるで切り拓いたかのようにして広がるのがマサダの遺跡です。「マサダ」とはヘブライ語でそのまま「要塞」の意味。ここではかつて967人のユダヤ人が生活を送っていたそうで、対する1万のローマ軍勢に3年半もの間抵抗し続けていたのだと言います。
住居跡やユダヤ教のシナゴーグ跡、大浴場跡など見どころ満載ですが、特に興味深いのがその巨大な貯水槽。雨の降らないこの土地で水を確保するために造られたのがこの貯水槽と水路。なんと4トンもの水を貯めておくことが出来たそうで、古代の人々の知恵には驚かされます。
当時のローマ軍が苦戦を強いられるほど頂上へは険しい道のりが続いていますが、今ではロープウェイもあるので気軽に観光することも可能。頂上からの景色も壮観で、草木の1つも生えていない荒々しい大地に自然の力強さを感じるはず。
ホワイトシティ・テルアビブ
エルサレムが宗教の街とするならば、テルアビブは経済・政治・文化などの国の中枢を担っている街と言えるでしょう。20世紀に出来たばかりの新しい街でありながら各国の大使館や大学など主要な機関が集まるここは、「都会」という言葉が似合う場所。
元々砂丘が広がっていたというテルアビブに人が移り住み始めたのは1909年のこと。ヨーロッパからやって来たユダヤ人60家族が「ユダヤ人の街をつくりたい」とこの地を購入したことが始まり。そのためかテルアビブの街並みは中東とは思えないようなヨーロッパ風の街並みが広がり、今もなお都市開発が盛んに行われています。
また地中海沿いにあるためテルアビブは美しいビーチを堪能できるリゾート地としても知られていて、海岸には高級リゾートホテルが建ち並びます。
そんなテルアビブの観光は様々なスタイルが考えられます。リゾートでゆっくり過ごすも良し、絵画や音楽、舞踊などの芸術を楽しむも良し、庶民の台所であるカルメル市場に赴いて現地の人の暮らしに触れてみるのも良し。
また世界遺産にも指定されているホワイトシティも圧巻です。1930年代初頭から1948年にかけて建てられた、文字通り白いビル群はなんと4000棟にもなると言われ、その規模は他に類を見ません。せっかくなら展望台や上空からその景色を見てみたいところ。きっと歩いているよりもその広さを実感して驚かされるはず。テルアビブ観光はそれぞれの好みに合わせたプランを立ててみてはいかがでしょうか。
キリスト教聖地巡礼・ガリラヤ湖周辺
ヨルダン川が水源となっているガリラヤ湖は、死海と同様海抜の低い場所にあるこの地域最大の淡水湖です。ここはイエス・キリストゆかりの地としても知られていて、ガリラヤ湖周辺にはキリスト教教会が多く建ち並びます。
特に標高125mの丘の上に建つ「山上の垂訓教会」は有名で、イエスが重要な思想や教義をここで語ったという言い伝えがあるのです。「祝福の山」とも称されるこの丘で彼は12の使徒を選んだとされ、教会内にはマタイによる福音書の「求めよさらば与えられん」などの有名なフレーズが刻まれます。
またダブハ村にある「パンの奇蹟の教会」も外せません。この教会はイエスが2匹の魚と5個のパンで、説教を聞きに来た5000人を満腹にさせたというエピソードがあり、その奇蹟になぞらえたモザイク画が教会内を飾ります。
こうしたキリスト教教会を巡るのがガリラヤ湖周辺の楽しみ方のメインではありますが、もちろん湖に入って泳ぐことも可能。いくつもビーチがあり、中にはウォータースポーツを楽しむことができる場所もあります。緑が多くて環境も良いので、涼む目的で訪れてみるのも良いでしょう。
受胎告知教会のあるナザレの町
ナザレと言えば誰もが一度は聞いたことがある地名なのではないでしょうか。ナザレというイスラエルの小さな町が世界的に有名なのは、ひとえに福音書にその名が載っているから。かつてのキリスト教徒は「ナザレ派」とも称されていたほどで、この地はキリスト教を語る上で切っても切れない重要な場所なのです。
特にナザレのシンボルである受胎告知教会は必見中の必見スポット。マリアが天使ガブリエルからイエスを授かったと告げられるシーンはあまりに有名で、レオナルドダヴィンチをはじめ多くの有名画家がその場面を描いた作品を残しています。ここ受胎告知教会は、実際にマリアが受胎告知を受けた洞窟の上に建てられており、中東最大級の教会。1969年に完成したばかりのそれはモダンな雰囲気で、信者たちが絶え間なく訪れる地なのです。
教会内部には各国から贈られたマリア像があるのですが、それぞれその地域の民族衣装を着ていたり、絵のタッチにも個性が感じられるのが面白い!ちなみに日本から贈られたマリア像は、大正から昭和にかけて活躍した日本画家・長谷川路可氏によるもの。着物を身に着けたマリアとイエスの姿は非常に日本らしく、浮世絵タッチなのもユニークです。
他にも聖ヨセフ教会や聖ガブリエル教会など数々の教会があるナザレ。せっかくイスラエルに訪れるならナザレで教会巡りをしてみるのも面白いでしょう。
アラブ人が住むイスラムタウン アッコー
地中海に面し長い歴史を持つ港町アッコー。紀元前に地中海貿易で繁栄したフェニキア人の時代から既に貿易として繁栄していたアッコーですが、その後は十字軍やアムルーク朝、オスマン帝国などから支配を受け、様々な歴史を歩むことになります。
特にオスマン帝国時代の影響は大きく、現在の旧市街の基礎はこの時代につくられました。迷路のように狭く入り組んだ路地と、点在するモスクやハマムはいかにもなイスラムの都市といった雰囲気。旧市街の住民もアラブ人がほとんどで、ユダヤ人は城壁の外の新市街に住んでいます。しかしそんな景色も地下に潜ると一変。地上のイスラムの趣とは対照的に、地下は十字軍時代の要塞都市の遺構がほぼ完全なかたちで残されています。キリスト教の礼拝堂や脱出用トンネル、商店街など当時の街並みが広がります。
その文化的な価値からアッコーの旧市街はユネスコの世界遺産にも登録されていますが、変に観光地化されていないのもこの街の魅力と言えるでしょう。街全体がまるで博物館のように美しいこの街で、地中海を臨みながら美味しいシーフードに舌鼓を打ってみてはいかがでしょうか。
イスラエルへの行き方
イスラエルの中心都市テルアビブまでは日本から直行便はありません。実はコロナ以前に直行便の就航が一旦決まっていたのですが、コロナがはじまり、延期になってしまいました。現状直行便が就航するかどうかは未定です。
そのためテルアビブまでは乗継便を利用することになりますが、ターキッシュエアラインズのイスタンブール乗り継ぎ便が成田、羽田より就航。またキャセイパシフィック航空の香港乗り継ぎ便が成田、羽田、関空、中部より就航していて、これらが便利なフライトです。ヨーロッパ系航空会社ではポーランド航空ワルシャワ乗り継ぎと、ルフトハンザ・ドイツ航空フランクフルト乗り継ぎ便が便利ですが、料金はやや割高です。
イスラエルとアラブ諸国は以前より関係が良くなかったのですが、イスラエルとUAEが国交を回復した関係から、エティハド航空が成田、中部よりアブダビ乗り継ぎで2021年夏ダイヤより就航予定となっています。また、エミレーツ航空の子会社フライドバイもドバイから就航予定。これにエミレーツ便の成田、羽田、関空からドバイの往復を加えれば、エミレーツ航空利用のイスラエル旅行も実現できることになります。今後、イスラエル旅行がますます便利になると予測されます。
イスラエルのツアー
イスラエル一周のコースは最低7日間。エルサレム、テルアビブ、アッコー、ナザレ、ガリラヤ湖と、パレスチナのベツレヘムの行くのが標準プランです。キリスト教を信仰している人や、キリスト教に興味のある人なら必ず行きたいベストルートです。ガリラヤ湖まで行くと旅行費用がかなり高くなるので、エルサレムおよびその周辺だけを行くという6日間、7日間の旅がポピュラーです。その場合でも、パレスチナ自治区のベツレヘムに行くのは必須です。ベツレヘムはエルサレムから半日行程で行ける場所で、しかもイエス・キリストの生誕地というトクベツ感のある聖地です。
また、せっかく中東まで行くので他の国も一緒に行きたいという人も多いと思います。しかし周辺はイスラエルと敵対している国もあるので、行ける国は限られます。一番良いのはヨルダンとイスラエルの周遊でしょう。ペトラ遺跡、死海、エルサレム、ベツレヘムを回ります。陸路で国境を超えるおもしろさもあります。他にもイスラエルとエジプトの2ヵ国、イスラエルとトルコの2ヵ国などのコンビネーションツアーが可能です。
変わったところでは地中海の島国キプロスとのコンビはどうでしょうか?キプロスのラルナカから、イスラエルのテルアビブは空路わずか1時間。キプロスは南と北に分裂していて、北がトルコ系、南の本体にギリシャ系住民が暮らしています。9日間くらいの日程でイスラエル、パレスチナ、キプロス、北キプロスの4カ国を周遊できるユニークなツアーで、異文化体験に最適のルートと言えます。いずれにしてもイスラエルやパレスチナの旅を専門にしている旅行会社に相談するのが良いでしょう。
まとめ
いかがでしたか?どうしても「危ない」「怖い」といったイメージが強いイスラエルですが、実際には我々旅人を惹きつけてやまない素晴らしい魅力を備えた国なのです。イスラム教、キリスト教、ユダヤ教。3つの宗教の一大聖地が集まっているのは世界中見渡してもこの国だけ。是非そんな他とは一風変わった国イスラエルに訪れてみてはどうでしょうか。きっとこの国のイメージが変わる素敵な思い出が出来ることでしょう。